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2024.09.22

乳幼児と研究(出張ドタキャン編)

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先日、ここ数年毎年参加していた日本理科教育学会全国大会が滋賀県で開催されました。

心機一転、新しいテーマで発表を予定しており、仕事と育児に追われながらもなんとか準備をしてきました。

また、昨年に引き続き所属する委員会のイベントの運営もあり、それに向けた準備もありました。

さらに、今年は初めて座長も依頼され、私に務まるだろうかとドキドキしながらも、依頼していただいたことが嬉しく、楽しみにしていました。

 

しかし、出発前日の朝、我が家の1歳児が熱発。

悩みに悩んだ末、学会参加は取りやめることにしました。

 

大会事務局の皆様、委員会の皆様、そして参加者の皆様に多大なご迷惑をかけてまで決断した、参加の取りやめ…

育児と研究の両立に悩む私が、このような状況の中で悩んだことや感じたことを、記録として残しておきたいと思います。

 

実は出張の前日キャンセルは2回目

実は、出長の前日キャンセルは、子どもが生まれてから2回目です。

1回目は、子どもが生後半年の頃でした。

お世話になっている研究者に、お子さんも一緒に是非と、現場での授業研究に呼んでいただきました。

学校現場での仕事に子どもを連れて行っても良いと言っていただける機会なんてそうそうないので、そう言っていただけるなら…と、参加を決めました。

我が子はこの頃までに2回、遠方の学会に同行させた経験がありました。しかし、これまでは同行者(夫や私の母)がいましたが、今回は初めての二人きりの出張。しかも、授業研究ですので学校現場で共に授業を見ることになります。

不安もありながら、子連れ出張を繰り返すたびに増していくある種の自信のようなものが妙に心地よく、この出張を終えればまた自信がつくなと、楽しみでもありました。

出発の2日前、オムツや子どもの服等を詰め込んだスーツケースを、宿泊先に発送しました。

 

そして、出発の前日。朝から子どもの様子がいつもと違います。くしゃみを連発。少しですが、鼻水も出ています。

生後約半年間は、元から備わっている免疫のため、風邪を引かないと言われています。実際、この日まで、予防接種の副反応以外は体調を崩したことはありませんでした。

そう、生まれて初めての風邪です。しかし、まだ熱はありません。機嫌もよく、元気そうです。

ですが、今晩、翌日、さらにその次の日、同じように元気な保証はありません。

出張に連れて行ってもいいものか…悩みました。

そこで、当時よく利用していた、お医者さんに質問のできるアプリを使って、子どもの状況と出張に行ってもいいかどうかを尋ねました。

6名の先生が回答をしてくださり、全員が風邪の引き始めとの判断、うち1名を除いた5名の先生が、自宅で様子を見たほうがいいとの回答でした。(1名の先生は、哺乳能力に問題がなければ行動制限は不要と言っていました。)

行動制限不要という少数派の意見にすがり、強行突破したいという気持ちもありましたが、生後6ヶ月、生まれて初めての風邪、急変の可能性もある、遠出すれば当然かかりつけの小児科はない…。

こうしたことを踏まえて、出張の取りやめを決めました。すぐに先生方にお詫びのメールを入れ、航空券や宿泊先のキャンセル手続きをしました。(もちろん、航空券も宿泊代も、キャンセル料は自腹です。)

 

楽しみにしていたのに、念入りに準備をしていたのに、あんなに何度もシミュレーションしたのに…と悔し涙を流したのを覚えています。

 

泣くほど悔しいのになぜキャンセルしたの?

今回も、出発の前日に、(文字通り)泣く泣く学会参加の取りやめを決定し、大会事務局や委員会の先生方へ、謝罪と共に連絡を入れました。

 

では、泣くほど悔しいのに、多くの人に迷惑がかかるのがわかっているのに、なぜドタキャンしなければいけなかったのでしょうか。

夫や他の家族、保育園、託児所など、子どもをどこかに預けることはできなかったのでしょうか?

 

わが子の通う保育園は解熱後24時間経たないと預けられません。また、学会は土日なのでそもそも保育園の利用が難しくなります。

保育園以外でも病気の子どもを預かってくれるサービスはありますが、その数は少なく、事前登録等が必要になることが多いのが現状です。我が家はそういったサービスの事前登録をしていませんでした(今後検討しなければいけないと痛感しました)。

次に、子どものおじいちゃんおばあちゃんです。こうした緊急事態におじいちゃんおばあちゃんが面倒を見るケースは想像がしやすいかもしれません。ですが、私の両親は遠方におり、夫の両親は忙しく働いています。それに、これまでおじいちゃんおばあちゃんに子どもを預けたことがないので、体調不良の子どもを預けられる状況ではありませんでした。

そして夫です。これは、頑張ればなんとかなったかもしれません。ですが、夫にも、子どもにも、かなり負担がかかることが予想されました。

 

これは、子どもの性質によることは大前提ですが、わが子の場合、まだ幼く母と離れるのに慣れていなかったというのが大きな理由です。生後半年の時点で、子の主な栄養源は母乳。ミルクは拒否で母乳しか飲みませんでした。なので、私から離れて生きていけない状況です。1歳を過ぎた現在では、保育園にも通っており私と離れることにも慣れてきたように思いますが、まだ1日以上離れたことがありません。以前、私の帰りが遅く、保育園の迎えから寝かしつけまでを夫に任せた際には、お風呂に入る前からずっとギャン泣きで、食事はほとんど食べず、水も全く飲まずに寝てしまったそうです。

そんな我が子です。体調が悪く、熱が出て、常に機嫌が悪い状態。体は辛く心は不安、しかも、いつもいるはずのママがいない。そうなると、最悪、母乳を求めて泣き続け、飲むのも食べるのも拒否…というのもありうるのでは、と思えました。体調不良の幼児の世話はただでさえ大変なのに、私がいないとなると、子どもにも面倒を見る大人(夫)にも、相当な負担がかかることは明白でした。

 

学会参加をキャンセルして周囲にかける負担と、学会に参加し子どもと夫にかける負担を比べたときに、後者の方が圧倒的に大きく感じられました。

(この段階で、座長の代わりは大丈夫と連絡をいただいていたことと、私の発表が幸いにもセッションの一番最後だったので発表取り消しの影響はそこまで大きくないと考えたことも、この判断につながりました。)

 

女性研究者として失格?

というわけで、学会参加の取りやめを決めた私ですが、決めるまで、そして決めてからも、何度も何度も悩みました。

 

だって、子どもの体調不良で学会発表に穴を開ける、まして座長を交代するような研究者を、私は見たことがありません。

強くてかっこいい女性研究者たるもの、家庭が大変でも、そんなそぶりを見せないで、当たり前に学会に参加して座長も務めて発表もこなすべし。そんなふうに思っていました。

実際、多くの女性研究者が、これまでそのようにしてきたのかもしれません。

それができなかった私は、子育てをする女性研究者として、覚悟やパワー、研究に向き合う気持ちが足りないんだ…

そんなことを何度も何度も考えては、悔しくて、不甲斐なくて、なんとも言えない気持ちになりながら、ぐずる子どもに向き合っていました。

 

ですが、周囲の反応は優しく温かいものでした。

「座長の代わりはいるけど、母親の代わりはいない」、「研究はこれから先いくらでもできる、子どもと過ごせる時間は貴重」と、私の判断を肯定してくださった先生、「辛い決断でしたね」と寄り添ってくださった先生、座長の代わりを申し出てくださった先生もいました。

 

心も体も疲弊している中で、このような温かい言葉には本当に救われました。

そして、徐々に気持ちが落ち着いていく中で、だんだんと自分の気持ちが言語化され、問題意識に変わっていきました。

 

研究者は研究のために生活を犠牲にし過ぎる人が多いように思います。かくいう私も、産休・育休中に博論を書いていました。そしてこれはおそらく、研究者コミュニティでは称賛される姿勢でした。ですが、今回、私は研究ではなく生活を優先させました。この選択は、研究者として決して称賛される選択ではないと思ったし、自分の目指す女性研究者像とも違っていました。私が今回一番苦しかったのは、発表ができなかったことよりも、こうした理想とのギャップだったように思います。

 

でも、こんなことで苦しむのもなんかおかしい…という気持ちもありました。

当たり前に生活を犠牲にしなければいけない、生活を犠牲にして研究に打ち込むことこそ美徳、こうした考えは時代に合っていないように思います。

では、具体的にどのようにしていけば良いのでしょうか。

 

こうなったらいいな

私のかなり限定的な経験からですが、下記のようなことを考えました。

第一に、学会等の出張は万が一の急なキャンセルに対応できる体制を準備しておくことです。

もちろん、病児保育の受け入れ先を探しておく、他人の世話に慣らしておくというように、万が一の子どもの体調不良でもキャンセルしない体制を整えておくことはとても大事です。

ですが、それがどうしても難しい場合もあります。

そのような場合に備えて、発表ができなくなったらどうするか、座長ができなくなったらどうするか等をあらかじめ考えておく必要があると思いました。

なるべく共同発表にするとか、座長を引き受けないという選択もあるかもしれません。

ただ、子を持つ研究者の選択肢が狭まることは避けたいです。

そこで、これらは個人の課題にするのではなく、学会の運営側として体制を整える必要があると考えるに至りました。例えば、急なキャンセルに対応できるよう、運営の人数を十分に確保しておくことや、当日の緊急連絡先を周知しておくこと、情報共有が迅速に行えるよう準備しておくことが考えられます。

そのほか、宿泊費や交通費はキャンセル料がかかる場合があります。研究費を使う場合、やむを得ないキャンセル料は研究費から支出できるようになれば、出張の予定を組むハードルも、いくらか下がるのではないでしょうか(そもそも通常はどのような扱いなのでしょうか)。

 

第二に、こうした事案について、相談できる、助けてと言える心理的安全性を担保することです。

例えば、今回は委員会の仕事がありましたが、「この委員の方たちなら正直に伝えればわかってもらえる」という安心感がありました。これは、委員を引き受けるにあたり幼い子どもがいることも伝えていたことや、そうした私の状況を委員のほとんどが理解してくださっていたことが背景にあります。

また、冒頭に書いた最初の出張キャンセルでは、「お子さんもぜひ」と声をかけていただいていたこともあり、こちらも事情を理解していただけるという安心感がありました。実際に、行けなくなったことを伝えた際にも「これにめげずにぜひ次の機会も」と声をかけていただき、とても励みになりました。

こうした心理的安全性は、「迷惑をかけてもいい」ということではなく、「理解してもらえる」という安心感だと言えます。委員会や研究チームにこのような心理的安全性が担保されていたからこそ、すぐに相談し、伝えることができました。

もちろん、「迷惑をかけてしまうな」、「委員会のイベントで困ることはないだろうか」といった不安はありましたが、「なんて言おう…」「こんなこと(ドタキャン)したら、なんて思われるのだろう…」といった心配はせずに済みました。

 

こうした心理的安全性は、ドタキャンしたその後の研究活動にも大きく影響するように思います。

例えば、授業研究のドタキャンの際に「これにめげずにぜひ次の機会も」といっていただけたことで、また迷惑をかけることになるかもしれないという気持ちはありつつも、それでも次の機会があれば挑戦しようと思うことができました。今回の学会も、(実際はわかりませんが)滞りなく済んだのであれば、次回以降も対面学会の参加に積極的に挑戦していきたいと思っています。

このように、研究の場での心理的安全性が担保されていれば、万が一の事態を考えて自身の研究活動を制限するのではなく、万が一の事態を考えつつも研究活動の場をそれまでと同様に広げていくという選択肢を取ることができます。

これは、幼い子どもがいるということがハンデにならない研究の場作りという点で、非常に重要であると感じました。

 

そして、こうした心理的安全性を担保するにあたり、当事者だけでなく、かつて当事者だった人や当事者でない人からも声が上がると良いなと思っています。

当事者というのは、まさに今コミュニティに迷惑をかけている(と本人が思っている)当事者ですので、声を上げるのを躊躇してしまいます。私も、この文章が公開されることで、どのように思われるだろうか、悪い印象を持たれるのではないだろうか、迷惑をかけているのにこんなことを言ってわがままだと思わるのではないだろうか…という不安を感じています。

そこで、現在当事者でない人にも「これって問題だよね」「これって大事だよね」と思ってもらえるのであれば、そうした声を上げていただけると嬉しいなと思います。


経験しながら考える

とはいえ、私は、いざ自分が経験しなかったら、こういった苦しさには気づけませんでした。

新米ママとして、挑戦したり失敗したりしながら、研究と育児の両立について考え続けていきたいと思います。

今回は「出張ドタキャン編」でしたが、子連れ学会編や博論執筆編も書きたいな…

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